DEIへの関心は高まっています。研修を実施し、採用の多様化を図り、方針も掲げてきた。それでも会議室のなかを見ると、発言する人はいつも同じ顔ぶれだった。
なぜ、発言の偏りはなくならないのか。そして、何が会議を変えるのか。この記事では、人事・組織開発担当者が直面しやすいこの問いに向き合います。
「また同じ人ばかり話している」その感覚は、たいてい正しい
会議が終わったあと、こんな気持ちが残ったことはないでしょうか。
「今日も結局、声の大きい人の意見で決まった気がする」「海外メンバーや若手は最後まで一度も発言しなかった」「議論は活発に見えたけれど、誰の視点が実際に反映されているのか」
これは担当者の努力が足りないのではありません。問題の根が、思っているよりずっと深いところにあるのです。
なぜ発言は偏り続けるのか
マシュー・サイドの著書『多様性の科学』(2021年)では、少数のメンバーが場を支配することで発言機会が不公平になり、心理的安全性が失われていくという「不均衡なコミュニケーション問題」が指摘されています※1。
これは意図的な支配ではなく、組織のなかに長年かけて形成された暗黙の序列が、会議という場に自然と投影される現象です。年次、役職、声の大きさ、母国語かどうか。こうした属性が、無意識のうちに「誰が話していい人か」を決めてしまっています。
多様なメンバーが同じ部屋にいても、一部の人しか発言しない会議では、多様性のある議論は実質的に起きていません。
<発言が一部のメンバーに集中している会議のイメージ>
同書はさらに、多様性のあるコミュニケーションによって議論の盲点が減り、アウトプットの質が向上することも示しています※1。また、ロシオ・ロレンツォとマーティン・リーブスがHarvard Business Review(2018年)で報告した研究によれば、組織に多様性があるほどイノベーションが生まれやすいとされています※2。
ただしここで重要なのは、「多様性があること」と「多様性が機能すること」は別の話だという点です。発言の機会が一部に偏っていれば、どれだけ多様なメンバーが揃っていても、その知見や視点は会議に届きません。DEIが「理念」にとどまらず「実践」になるかどうかを分けるのは、まさに会議という日常の場です。
よくある誤解「ファシリテーターを鍛えれば解決する」
多くの組織が最初にとるアプローチは、ファシリテーションスキルの向上です。進行役のトレーニング、発言を促す問いかけの技術、ブレインストーミングの手法。これらはたしかに有効で、取り組む価値があります。
ただ、一点だけ見落としがちなことがあります。スキルは「意識している間」しか機能しない、という点です。
研修直後は発言が増えても、数週間後には元の状態に戻る。この経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。人は習慣と環境に引っ張られる生き物です。意識的な努力だけで長年染み付いた会議文化を変えることは、構造的に難しいのです。
もう一つ、別の落とし穴があります。感覚で「あの会議はうまくいった」と判断することの限界です。「今日は活発な議論だった」と感じていても、実際の発言量を計測してみると、特定の数名で全体の大半を占めていた、ということは起こりえます。コミュニケーションの計測が難しいがゆえに、改善策は経験や勘、他社事例の踏襲になりがちです。
ここで少し立ち止まって考えてみたいこと
発言が偏る問題は、個人の積極性や性格の問題だけでなく、「参加者が自分や相手の状態を客観的に把握できていない」という構造的な問題でもあります。
この客観的な把握を、研究では「メタ認知」と呼びます。「Aさんが参加できていない」「自分が話しすぎているかもしれない」と会議中に俯瞰的に気づき、行動を調整する能力です。
ただし、N. Lobczowski らの研究(2021年)が指摘するように、メタ認知は脳への負荷が高い認知スキルです※3。会議を進めながら、同時に場全体の状態を把握し続けることは誰にとっても簡単ではなく、ファシリテーターが一人でこれを担おうとすれば、それ自体が大きな負担になります。
解決の方向性「見える化」が果たす役割
一つのアプローチとして注目されているのが、会話データの「見える化」です。
誰が何分話したか、どの参加者は一度も発言しなかったか、対話の往復はどのくらいあったか。こうしたデータをリアルタイムで、あるいは会議後に振り返れるようになると、主観的な感覚ではなく、共通の事実をベースに改善の議論ができるようになります。
グラフを見た参加者が「自分が思っていたより話していなかった」「思った以上に話しすぎていた」と気づくだけで、次の会議での行動は自然と変わっていきます。
重要なのは、このデータは誰かを責めるためのものではないという点です。「会議全体として、どのような状態だったか」を参加者全員が同じ視点で確認できる。そのフラットな情報共有が、心理的安全性を損なわずにメタ認知を促すきっかけになります。
<Hylable Discussionの画面イメージ。発話量やターンテイクをリアルタイムで可視化する>
パーソル総合研究所の調査(2020年)では、コミュニケーションの頻度がWell-beingを高めることが示されています※4。発言しやすい会議環境をつくることは、DEIの推進であると同時に、メンバーの働きがいにも直結する取り組みです。
「今日の会議で、まだ聞けていない意見はありますか」「発言できなかった人はいましたか」
この問いを定期的に挟むだけで、参加者の会議への関わり方が少しずつ変わってきます。大掛かりな変革ではなく、小さな問いの繰り返しが、組織文化を静かに書き換えていきます。
のべ17万人のデータが示すこと
ハイラブル株式会社は、対面・オンラインを問わず、企業研修から教育機関まで、のべ17万人以上の会議・対話データを蓄積してきました。その知見は国内外の学会でも継続的に発表されています。
企業での導入事例として、株式会社アドバンテスト(社員数7,000人)のフィールドサービス部門が定例会議に活用した例があります。担当者は導入前から「発言量の偏りや、特定の人同士の会話が多いことをなんとなく感じながらも、目に見えるものではないため、議論の活性化にどういったアプローチをするべきか悩みがあった」と話していました。
<株式会社アドバンテストでの活用事例 初回使用時と複数回使用時のレポートの一部>
その後、ファシリテーターの持ち回り制や座る位置の工夫など、チーム自身が次の行動を考え始めたといいます。
事例の詳細はこちら >
この話、もう少し深く聞いてみたい方へ
ここまで読んでいただいた方のなかには、「具体的にどんなデータが取れるの」「自社の会議規模で使えるの」「DEI推進の文脈でどう活用できるか、もう少し詳しく知りたい」と感じている方もいるかもしれません。
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会議は「参加の量」で変わります。
まずは、自分たちの会議を「見てみる」ことから試してみてはいかがでしょうか。
不均衡なコミュニケーション問題(少数が場を支配し発言機会が不公平になること)と、多様性のあるコミュニケーションが議論の盲点を減らしアウトプットの質を高めることを論じる。
※2 ロシオ・ロレンツォ, マーティン・リーブス, 「組織の多様性はどこで、どのように業績を高めるのか」, Harvard Business Review, 2018.
組織に多様性があるほどイノベーションが生まれやすいことを報告した研究。
※3 N. Lobczowski et al., Socially shared metacognition in a project-based learning environment: A comparative case study, Learning, Culture and Social Interaction, 30(3), 2021.
参加機会の確保にはメタ認知が必要であるが、それは脳への負荷が高い認知スキルであることを示す。
※4 パーソル総合研究所, 「はたらく人の幸せに関する調査 結果報告書」, 2020.
コミュニケーションの頻度がWell-beingな状態を高めることを示す国内調査。
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この記事を書いたメンバー
中村(み)
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