このシリーズの筆者の水本武志です。ハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めています。
私はカエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っています (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。カエルについて聞かれることや話す機会も多くあるため、カエルについてはそれなりに知っているつもりでした。
しかし、あるときシカゴ美術館で手に取った『Frog』を読んで驚きました。そこには、カエルの声のセンシングや数理モデルの研究をしていくなかでは触れてこなかった、私が知らなかったカエルにまつわる文化の話がたくさん解説されていたからです。
想像以上に、カエルは人間と深いつながりを持っていました。
カエル博士になるためには、こうしたカエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろう — そう思い、『Frog』 を下敷きに、カエルにまつわる話を調べて共有していくことにしました。
ぜひ楽しんで読んでみてください。
はじめに
カエルは英語でなんと言うでしょうか?
フロッグ(frog)ですね。
それでは、トード(toad)はどうでしょうか。日本のRPG『ファイナルファンタジー』シリーズにカエルの姿で「トード」という敵が出てきますし、これもカエルを表すようです。 では、どちらが正しいのでしょうか?
実は、どちらも日本語としては「カエル」なのですが、どうやら 英語圏では frog と toad は違うものを指すようなのです。これからその違いを見ていきましょう。
英語圏におけるフロッグ(frog)
英語圏で frog と聞いたときに思い浮かべるカエルは、こんな特徴をもっています。
フロッグ型のカエル
- 緑色
- 肌がつるつるしている
- 水辺に住んでいる
- 後ろ足が長くて跳ね回る
セサミストリートに出てくるカーミットというキャラがとても有名ですね。ど根性ガエルのピョン吉もこちらです。「カエル」というと、まずこのイメージが湧くのではないでしょうか。 好き嫌いはあるにせよ、ちょっと可愛くて、子供向けの絵本やテレビ番組にも出てくるような生き物。それが frog です。
英語圏におけるトード(toad)
逆に、toad と聞いたときに思い浮かべるカエルは、だいぶ様子が違ってきます。
トード型のカエル
- ちょっと茶色い色
- 皮膚はイボだらけ
- 湿った場所に住んでいる
- 地面を這う
日本語だと「ヒキガエル」や「ガマガエル」がこれにあたります。たしかにそんなに可愛い感じはしませんが、欧米、特にキリスト教圏では、frog に比べて toad は驚くほど嫌われています。
たとえば、toad は魔女の使い魔だと信じられており、シェイクスピアの『マクベス』では、魔女が toad を鍋に放り込むシーンが出てきます。他にも、罪や強欲の象徴として、さまざまな中世ヨーロッパの絵画に描かれています。
魔女が使うのは toad であって frog ではない
英語の表現にも、toad を使った悪口がたくさんあります。
たとえば、「You toad!」 は「卑怯なやつ!」という意味です。 「toady」 という名詞は、太鼓持ち、つまりお世辞ばっかり言うペテン師、というような意味になります。これは昔、ペテン師の助手が観客の前でヒキガエルを食べてみせて、ペテン師の薬で治る芝居をする、という見世物に由来します。
日本では「ガマの油」が打ち身・切り傷の薬として親しまれ、「ガマの油売り」が江戸時代の名物芸として残っているくらいですから、真逆ですね。同じヒキガエルなのに、海を渡ると「いやしい芸の小道具」と「ありがたい民間の薬」、ここまで違う扱いになるのです。
ちなみに、英語では frog と toad は別の単語として使い分けられ、16世紀ごろまでは別の生き物のように扱われていました。ですが、現代の生物学では、frog も toad も同じ無尾目(Anura)という同じグループに分類されます。つまり、生物としては親戚どころか同じ仲間なのに、文化的にはこれだけ違う扱いを受けてきた、というわけです。
二つを言い分けるって不便じゃない?
frog と toad は別の単語なのに、生物としては同じグループの仲間だということがわかりました。 すると、これらをまとめて指したいときには「frog and toad」と並べて言わないといけないのでしょうか。
実は解決策があります。
batrachian(バトラキアン)
という言葉です。これはギリシャ語の batrakhos(バトラコス) を由来に持つ語で、19世紀ごろにはよく使われていたそうです。日常会話ではあまり見ない言葉ですが、ちょっと口にしてみるとかっこいいかもしれません。
ちなみに、amphibian(両生類) という言葉は、もう一段広い分類を指します。「水中と陸上のどちらにも住む生き物」という意味です。両生類といえばカエルやイモリですが、これらは3つのグループに分けられます。
アシナシイモリ?なんだそれは?
ということで、このシリーズでは、生物分類学的にいうと amphibian(両生類)の中でも、特に Anura(無尾目)に注目していく、ということになります。
世界ではカエルはどうやって言い分けてるの?
ここまでは英語と日本語の話でしたが、他の言語ではどうなのでしょうか。 ドイツ語やフランス語などのヨーロッパ系の言語では、おおむね英語と同じように、frog と toad に対応する別々の言葉があります。
| 言語 | カエル | ヒキガエル |
| 英語 | frog | toad |
| ドイツ語 | Frosch フロッシュ |
Kröte クレーテ |
| フランス語 | grenouille グルヌイユ |
crapaud クラポー |
一方で、日本語ではまとめて「カエル」と呼んでいますし、アラビア語でも基本的にはカエルとヒキガエルを似た語で呼ぶようです。具体的には、frog に対応する語が「カエル」とすると、toad に対応する語は「山のカエル」という表現になるようです。 言語によって、カエルの分け方がここまで違うというのは、なかなか面白いですね。
まとめ
今回は、「カエルを英語で言うとき frog と toad のどちらが正しい?」という問いについて考えました。
答えは、どちらも日本語ではカエルなので正しいが、英語圏では指しているものが違う。でした。
このシリーズ「カエル博士への道」では、こんなふうにカエルにまつわる文化や歴史を、ひとつずつ紐解いていこうと思います。次回もお楽しみに。
#カエル #生物多様性 #ハイラブル #KoeTurri
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 カエルの連載で新たな知識を得ている。