このシリーズの筆者の水本武志です。ハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めています。
私はカエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っています (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。 よりカエル博士になるためには、カエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろうと思いカエルにまつわる話を調べて共有していくことにしました。
ぜひ楽しんで読んでみてください。
はじめに
まずはクイズです。
カエルの鳴き声は日本語では「ケロケロ」や「ゲロゲロ」です。 では英語ではなんと言うでしょうか。
口を膨らませて鳴くヒキガエル
答えは ribbit (リビット) です。 実際にリビッ リビッ と声に出してみると、カエルの声っぽく聞こえるのではないでしょうか。 ちなみに、 croak (クローク)でも正解です。
ということで、今回は、カエルの鳴き声の擬音語(オノマトペ)の話です。
世界のカエルの聞こえ方
世界では下の表のように、様々な擬音語でカエルの鳴き声が表現されています[1]。
| 英語 | ribbit / croak |
| ドイツ語 | quak |
| イタリア語 | cra-cra |
| 中国語 | guo-guo |
| 韓国語 | gae-gul |
| ポーランド語 | kum-kum |
| ハンガリー語 | brekeke |
| 日本語 | ケロケロ / ゲロゲロ |
全体を通してみると、どの言語もなんとなく k r g みたいな音がありそうに見えるものの、そんなにきれいな共通点はみあたりませんね。
この違いの一般的な説明は、そもそも言語の特徴が違うからだ、というものです。たとえば、日本語には英語より子音が少ないので、ribbit とか quak のような、擬音語が生まれづらいということです。
本当にそれだけでしょうか?
文化による影響:ハリウッド
まずは英語の ribbit から。
実は、本当に「ribbit」と鳴くカエルは太平洋アマガエルなのです(鳴き声はこちら(YouTube))。 このカエルはアメリカの西海岸にしかいません。なのになぜ「英語でカエルの鳴き声といえば ribbit」になったのか。
理由は映画の街ハリウッドです。
映画の街ハリウッド
最初期の映画は映像だけの無声映画しかありませんでしたが、1920年代ごろから音声付きの映画が作成されるようになりました。このとき、カエルの鳴き声を使う必要が出てきたというのです。そして、ハリウッドの近くにいたこの太平洋アマガエルが録音されて素材になりました[2]。
すると、他の映画でも同じ音声が使われるようになり、カエルといえば太平洋アマガエルという習慣ができてしまいました。実際様々な映画に使われているようで、米国国立公園局のウェブサイト[3]にも載っているほど知られており、ハリウッドガエル(Hollywood Frog) という異名もついているようです。
こんなふうに、実際に聞いた音声より、文化的な「言葉で覚えた擬音語」から聞こえ方が影響を受けてしまうことがあるのです。
文化による影響:1000年前の日本
こうした出来事は、実は日本でも起こっていました。和歌です。
万葉集や古今和歌集にもカエルの歌はあり、たとえばこんなふうに、カエル(かはづ)の歌が読まれていました。
かはづなく 井手の山吹 ちりにけり
花の盛りに あはましものを
(よみ人しらず / 古今和歌集)
ただし、この「かはづ」が指しているのは、カジカガエルのことでした。 河でシカのようにリリリリと鳴くから「河の鹿」、そして河鹿(カジカ)という名前になったようです。とてもきれいな鳴き声で、私の好きなカエルの一つです。
もちろん当時の日本にもカジカガエル以外のカエルも生息しているわけで、他のカエルの鳴き声も聞こえていたはずです。にもかかわらず、万葉集でカエルといえばカジカガエルを表していると考えられているようです[4]。
この構造、つまり映画や和歌の表現によって、鳴き声のイメージが固定されるという状況はハリウッドに似ていませんか?
ちなみに、この型を外した有名な歌があります。
それが松尾芭蕉の俳句
古池や 蛙飛びこむ 水の音
です。従来はカジカガエルのように「カエルの鳴き声」に着目した歌ばかりが歌われていたのですが、この俳句ではその動きに着目したという点で新しく、松尾芭蕉の発明だと考えられているようです[5]。
まとめ
カエルといえばケロケロ/ゲロゲロだというのは日本で生活していると知っていきますし、英語を勉強するときにその対応する語が ribbit だというのも勉強をします。
しかし、実はそれは正確にカエルを聞いたというよりは、映画や和歌などのメディアの影響を色濃く受けているとも言えるというのは、新しい発見だったのではないでしょうか。
ハイラブルの生物の声を識別するソリューション KoeTurri の前身となった日比谷公園のにぎわい可視化システムの開発過程では、鳥の声を擬音語にして表現するイラストも作成しました。しかしこれらも、私たちの知らないうちに何かの影響を受けているのかも知れません。
ここにリストがあるので、ぜひみなさんも音声を聞いてみて、本当にこの擬音語でいいのか考えてみてはいかがでしょうか。(日比谷公園の鳥の声リスト)
参考文献
[1] Rose Adams, “What Does the Frog Say?”
https://medium.com/@radams20/what-does-the-frog-say-792b9f50b870
[2] Now I Know, “Why Frogs Ribbit”,
http://nowiknow.com/why-frogs-ribbit/
[3] National Park Service, “Baja California Treefrog”,
https://www.nps.gov/places/baja-california-treefrog.htm
[4] かえるモノ語り,
https://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/kotobadefurikaeru/2021/05/post-1a99a6.html
[5] Wikipedia「古池や蛙飛びこむ水の音」,
https://ja.wikipedia.org/wiki/古池や蛙飛びこむ水の音
#カエル #生物多様性 #ハイラブル #KoeTurri
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 カエルの連載で新たな知識を得ている。