カエルはなぜ両生類? 爬虫類との違いと、「両生」という言葉の由来

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カエルが両生類に分類されるのは、幼生(オタマジャクシ)はえらで呼吸して水中で暮らし、成体は肺と皮膚で呼吸して陸上でも暮らす、という二つの生き方をひとつの生涯で経験するからです。「両生」は「水陸の両方に生きる」の意で、ギリシャ語の amphi(両方の)+ bios(生)をそのまま訳した言葉です。

  • 爬虫類との違い/トカゲやヘビは乾いたうろこの皮膚を持ち、殻のある卵を陸に産み、変態しません。カエルは粘膜の湿った皮膚を持ち、殻のない卵を水に産み、変態します。
  • 「両生類」の中身は昔と今で違う/リンネが1758年に定めた Amphibia には、カメもワニもヘビも、さらにサメまで含まれていました。

では、この言葉はどうやっていまの意味に落ち着いたのか。以下では amphi+bios の原義から、プロティノス、トマス・アクィナス、リンネ、ヘッケル、そして日本語に「両生類」という訳語が生まれた1874年の田中芳男『動物学初歩』まで、言葉の来歴をたどります。

両生類ってなに?

カエルは両生類に分類される、というのは学校の理科などの授業でも習いますし、聞いたことがある話だと思います。水と陸の両方で生きられるから両生類、というわけです。魚類は水の中で、爬虫類は陸で生きるので、その間にいるとよく説明されます。わかりやすいですね。

しかし、本当に昔からカエルは両生類だったのでしょうか? 実は、両生類という言葉自体は 2000年も前からあるものの、その意味は現代までにどんどん変わっていっているというのです[1]。

ことば編の最後は、両生類という言葉の歴史を紹介します。

両生類の生まれ:古代ギリシャから中世

両生類 (Amphibian) という語はギリシャ語に由来します。 生まれはとてもニュートラルな言葉だったそうです。両方を表す amphi と、生を表す bios がつながった語で、水と陸の両方で生きるということを表すだけでした。

3世紀に、古代ギリシャの哲学者プロティノスが、この語を人間を語るために使います。 人間のなかには、理性的な部分(魂)と動物的な部分(肉体)が同居しています。この二重性を表す言葉として、Amphibianを使ったのです [1]。この時点では、哲学の用語でした。

しかし中世になって、雲行きが怪しくなってきます。トマス・アクィナスは、生き物が腐敗しやすいという特徴を、キリスト教の神学に結びつけます[1]。魂は腐らないが、肉体は腐っていきます。この腐っているとも腐っていないともいえない、どちらでもない状態 (Amphibian な状態) がここではどっちつかずのネガティブな状態だと考えられたそうです。このあたりから、水と陸に住むカエルのような生き物は、こうしたどっちつかずの両生類とみなされるようになってきました。

こうした感じ方は、のちにヨーロッパの人々がカエルを嫌うきっかけになっていきました。

カエルから美の神アポロへ

同時期に、当時のヨーロッパでは「存在の連鎖」という考え方が広がっていました。全ての存在には高貴なものから下賤なものへ順序があるという考え方です。ここでは、神を頂点に、天使や人、動物と階層が下っていき、カエルは下の階層に置かれました。ちなみに本当の最下層は鉱物などの無生物で、虫やミミズなどもカエルと同じあたりに置かれていたようです。

それを表した図も残っています。それが下の図です。カエルから徐々に原始人になっていき(左図)、原始人から人を経て美の神アポロになっていきます(右図)。このように、当時は生き物に神も含めて序列が考えられていました。

カエルから原始人へ 原始人からアポロへ

カエルから原始人へ、原始人からアポロへ。
カスパー・ラヴァーターの原画をクリスティアン・フォン・メッヘルによって版画にしたもの, 1797
(パブリックドメイン、 左画像右画像

動物の分類と両生類:18世紀から100年

時代は前後しますが、同時に科学も進んでいきます。分類学を始めたリンネは、1758年に著書『自然の体系』[2]で、動物を6つのグループに分類します。鳥綱・哺乳綱・魚綱・両生綱・昆虫綱・蠕虫綱です。

自然の体系(第10版、1758年)

自然の体系
(第10版、1758年、パブリックドメイン、リンク

これが両生類の始まり、と言いたいところですがまだそうはなっていません。というのも、当時両生綱に入れられたのは、こういう生き物だったのです。

  • カメ
  • ワニ
  • トカゲ
  • ヘビ
  • ガラガラヘビ
  • サメ
  • カエル
  • イモリ

今の感覚だとなんとも雑多に見えますが、どういう基準で入れたのでしょうか。この理由は、リンネが当時スウェーデンに住んでいたからだということが分かっています[3]。というのも、彼はヘビが水辺で狩りをするために水に潜るのを見ていたそうなのです。ここから、ヘビは水と陸の両方で生きるという印象を持ったので、両生綱に入れられたということでした。カエルは同じ理由で両生綱に入れられました。 つまり、生態学的な分類というより、水と陸の両方で生きているとリンネがみなしたものがここに入っていたのです。これは古代ギリシャで生まれた Amphibian の定義「水陸両用」に忠実に従ったと言えるかもしれません。

と、ここまではまだ理解できますが、実はサメのような軟骨しか無い魚もここに入れられていました。ちなみにサメは「泳ぐもの」を入れたサブグループに入っていました。このように両生綱というのは、うまく他のグループに入らない生き物の雑多な入れ物にもなっていました。
(実は蠕虫綱(ぜんちゅうこう)もさらに雑多なグループのようですがそれは割愛します)

こうして生まれたリンネによる生物の分類は、それから紆余曲折ありながらも100年ほど残っていったようです。

進化論による両生類の整理

この状態を打破したのがダーウィンの『種の起源』(1859年)に始まる進化論でした。進化論によると、生命は水中で始まり、陸に上がったという進化をたどります。この考え方を成立させるには、水中にいる魚と、陸に上がった爬虫類の間を表す生物の分類が必要になります。これが両生類になるわけです。

『種の起源』の表紙(パブリックドメイン)

『種の起源』の表紙(パブリックドメイン、リンク

最初に現代の両生類を教科書に書いたのがドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルでした[1]。これまでは解剖して調べたり、化石を調べたりといったある決まった状態で生き物を調べていました。しかし彼は、おたまじゃくしからカエルに姿が変わっていく過程に、生命が水から陸へあがる縮図を見出しました。ここから、カエルは「水から陸に上がる生物」ということが明らかになり、現代と同じ意味の「両生類」に分類されました。

そして、この発想に基づいて、サメ・ヘビ・カメは両生類から外され、カエルとイモリとサンショウウオだけが両生類に残りました。こうして、現代と同じ両生類のメンバーが揃いました。

ちなみに日本では?

日本で両生類(当時は両棲類)という語はいつ生まれたのでしょうか。 そもそも西洋と似た動物の分類を始めたのは19世紀前半でした[4]。さらに1874年(明治7年)に日本の分類学者の田中芳男が『動物学初篇』という本で現在の分類の訳語(class=綱、order=目、family=科、genus=属、species=種)を定めます。これが現代にも受け継がれています。両生類もこのあたりの時期に定着しているようです。

『動物学 初編』(東京大学総合図書館所蔵)

『動物学初篇』(東京大学総合図書館所蔵)リンク

つまり、日本が分類を始めたのは19世紀、西洋での両生類を巡る騒動が終わった後だったのです。したがって日本では始めからカエルやイモリが両生類であるという現代的な認識をすることができました。

(ちなみに、「両棲類」という、Amphibianを表すのにかなりイケている訳語を誰が最初に作ったのかは資料を見つけられませんでした。もし見つけたらぜひ教えてください。)

まとめ

当初は単に水と陸で生きるということを表す語だった Amphibian が、2000年かけて一度嫌われながら、いろいろな生き物を表す名前になっていき、最終的に「水から陸に上がる生物」という分類の名前に落ち着いてきた、という歴史を駆け足で追いかけました。

カエル自体が変わったわけではないのに、それを見たり分類する言葉の方はどんどん変わっていくようすが見えたのではないでしょうか。言葉だけではなく、実際のカエルの声を聞いて、姿を見てみるというのも大事かもしれません。

参考文献

[1] Charlotte Sleigh, Frog, Reaktion Books, 2012
[2] Carl Linnaeus, Systema Naturae, 10th ed., 1758
[3] Wikipedia, Amphibia in the 10th edition of Systema Naturae, 2026年7月13日閲覧 https://en.wikipedia.org/wiki/Amphibia_in_the_10th_edition_of_Systema_Naturae
[4] 田中芳男, 動物学初篇, 1874

#カエル #生物多様性 #ハイラブル #KoeTurri


この記事を書いたメンバー

水本武志

このシリーズの筆者でハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めている。 カエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っている (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。 よりカエル博士になるためには、カエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろうと思いカエルにまつわる話を調べて共有していくことにした。

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