このシリーズの筆者の水本武志です。ハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めています。
私はカエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っています (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。 よりカエル博士になるためには、カエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろうと思いカエルにまつわる話を調べて共有していくことにしました。
ぜひ楽しんで読んでみてください。
はじめに
カエルには毒があるということを知っていますか?
たとえば、ヤドクガエルは毒性が強く、毒矢に塗るために使われていたぐらい強力な毒を持っています。
青いヤドクガエル
さらに、ニホンアマガエルのような小さなカエルでも表面には弱いけれども毒があります。素手で触ったらきちんと石鹸で手を洗いましょう。間違ってもそのまま目をこすったりしては行けません。猛烈な痛みを味わうことになります。あれは本当に痛かったので、気をつけてください。
私は、強い・弱いはともかくすべてのカエルは毒を持っていると思っていましたが、調べてみるとどうやら毒を持たないカエルもいるようです。ただ、いずれにせよ生き物に触った後はしっかり手を洗うのが安全ですね。
ということで、今回はカエルと毒の話です。
毒を表す英語は?
英語で毒を表す単語は何でしょうか。
答えは poison (ポイズン) だと思いましたか?半分正解です。 もうひとつ毒を表す語があります。それが、venom (ベノム) です。
ポケモンの「ベベノム」はどくタイプなのでこのベノムから来ているのかもしれません。 さらに、どくタイプの「ベノムショック」なんて技もあるようなので、ポケモンをやっていたら耳馴染みのある単語かもしれません。
それでは poison と venom の違いは何でしょうか。それは、毒の届き方です。 poison は受動的な毒、つまり私たちが触れたり食べたりすると受けてしまう毒です。 一方、venom は能動的な毒、つまり咬んだり刺したりされる毒のことを指します。
この違いの覚え方には有名なフレーズがあります。
あなたが噛まれて死ぬなら venom、あなたが噛んで死ぬなら poison.
(If it bites you and you die, it’s venom. If you bite it and you die, it’s poison.)
たとえば、毒蛇はこちらを噛んでくるので venom、毒キノコは私たちが食べるので poison だということです。
カエルの毒はどっち?
それではカエルの毒はどちらなのでしょうか? 昔は venom だと考えられていました。
たとえば、古代ローマの博物学者が記した大プリニウス『博物誌』第32巻には、ある大きなカエル (Rubeta) は角のような突起を持ってそれが毒に満ちている、という説明がされています[1]。
さらに、17世紀の聖職者エドワード・トプセルの『The Historie of Serpents』は、ヒキガエルの毒のイメージを定着させました。たとえばこのような説明が書かれていました。
- 「あらゆるヒキガエルは有毒」
- 「噛まれると体が膨れる」
- 「カエルの唾がかかると頭髪が抜ける」
- 「魔女は毒殺のためにヒキガエルを使う」
トプセルのカエルの木版画 (The History of four-footed beasts and serpents, 1658, p. 726)リンク
14世紀のイタリア短編小説デカメロンには、庭にあるセージの葉を歯にこすったところ二人とも死んでしまった、そしてこの原因はその根本にいたヒキガエルの「毒気を含んだ息 (venomous breath)」がセージの葉を毒にしてしまったからだった、という話も出てきます。
デカメロン第4日第7話の挿絵。カエルの”毒”で死んでしまった様子 (1697年, Wikimedia Commons)
このように、古代から中世のヨーロッパでは、カエルは毒を持っていて、しかも人間を害しにやってくる venom を持っている、というイメージが広く定着していたようです。
しかし現在は、カエルは受動的な毒、つまり poison だということが分かっています。 カエルが毒を持ってこちらにやってくるのではなく、食べられたときに中毒症状を起こすために毒を持っているというわけです。 古代ローマから現在まで、2000年近く持たれていたイメージは、こうして覆ったというわけです。
本当にそうか?
ところが、2015年にさらにこの例外が見つかりました。頭にトゲがあり、それで頭突きをすることで毒を注入するカエルがブラジルで発見されたのです[2]。研究者の一人は、このカエルに刺されたところ5時間にわたって激痛に苦しんだそうです。
さらに、見つかった種のうちブルーノイシアタマガエルは、この毒は1グラムで80人もの大人を殺傷できるほどの毒を持っています[3]。
ブルーノイシアタマガエル (Wikipedia より引用[3], リンク) 撮影 Renato Augusto Martins(via Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)
ちなみに、この venom なカエルはアマガエル科、つまり日本でおなじみであり、ハイラブルの社名の由来でもあるニホンアマガエルと同じグループです。まだまだ彼らとは縁があるようです。
まとめ
今回はカエルの毒について紹介しました。 毒には、受動的な poison と、能動的な venom があり、2000年近くカエルの毒は venom だと考えられてきたが、最近は poison だということが分かっています。ただし、2015年に venom な毒をもつカエルも発見されたよ、ということでした。
毒を持つ生き物が出てきたら、それが poison か venom かを考えてみると毒の理解が深くなるでしょう。ぜひやってみてください。
参考文献
[1] 大プリニウス『博物誌』,
https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.02.0137:book=32:chapter=18
[2] Can frogs be venomous?,
https://www.nhm.ac.uk/discover/can-frogs-be-venomous.html
[3] Wikipedia「ブルーノイシアタマガエル」,
https://ja.wikipedia.org/wiki/ブルーノイシアタマガエル
#カエル #生物多様性 #ハイラブル #KoeTurri
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 カエルの連載で新たな知識を得ている。