このシリーズの筆者の水本武志です。ハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めています。
私はカエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っています (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。 よりカエル博士になるためには、カエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろうと思いカエルにまつわる話を調べて共有していくことにしました。
ぜひ気楽に楽しんで読んでみてください。
今回からは、カエルにまつわる文化を紹介していきます。
カエルは何メートル跳ぶ?
今回の主役はウシガエルです。ウシガエルはアメリカ原産のかなり大きなカエルで、体長は10〜20cmぐらいあります。では、このウシガエルは最大で何メートル跳べるのでしょうか。
論文によると、実験室で観測した最大の跳躍距離は 1.3m だそうです[1]。相当跳びますね。
ウシガエル(Lithobates catesbeianus)
撮影: Doug McGrady / Flickr、CC BY 2.0(Wikimedia Commons 経由)
しかし実は、この数字は正確ではなかったようなのです。そして、それを教えてくれたのは次の論文ではなく、アメリカのカリフォルニアで行われるお祭りでした。
カエルを跳ばせるお祭り
アメリカのカリフォルニア州に、カラベラス郡という場所があります。人口は4〜5万人、自然が中心の田舎町です(リンク)。この町では、カエルを跳ばせる祭りが100年も続いています。
トム・ソーヤーなどで有名なマーク・トウェインがこの町で執筆していたことが知られていて、その彼がこのカラベラスを舞台にした「カラベラス郡の名高い飛び蛙(The Celebrated Jumping Frog of Calaveras County)」という小説を書きました。(日本語訳ではキャラベラスとも表記されるようです。)
マーク・トウェインの小説の表紙(リンク)
この不思議な祭りは相当有名なようで、カリフォルニアの観光案内ページでも紹介されているほどです(リンク)。案内ページによると、そもそもマーク・トウェインの時代にカエル跳び大会が行われていたのかも定かではないそうで、なにもかも不思議なお祭りと言えそうです。
カエル跳び大会のようす(Instagramより)
カエル跳び大会のルールはこうです。
- カエルをステージの上に置いて、手を離す
- 3回跳ばして、スタート地点から3回目までの距離を直線で測る
- この直線が長いほうが勝ち
さらに、カエルを訓練したり触ったりするのはルール違反で、台に置いたらあとは跳ばす人(カエル・ジョッキーと呼ばれるそうです)が床を踏み鳴らしたり、手を叩いたり、声を出したりして、カエルに「その気になってもらう」ことだけが許されているそうなのです。
距離は3回跳んだあとに直線で測るので、途中で戻ってきてしまうと記録は伸びません。いかに効率よく遠くへ跳んでもらうかが大事なようで、ジョッキーの腕がそういう意味でも問われます。
カエルの跳躍記録
1986年に、 Rosie the Ribiter というカエルが大記録をだしました。 6.55メートルです。つまり平均すると 1回あたり2.2mぐらい跳んだことになります。この記録は 40年間抜かれていないそうです。
最初に紹介した 1.3m という最大の跳躍距離を、だいぶ超えています。
科学的なお祭りの調査
2013年、アメリカの研究者がこの祭りに乗り込んで調査をしました[2]。
4日間の大会中、かれらはステージ上のカエルをビデオに撮影し続けました。のべ3124回です。このうち、58%がこれまでの最大値の 1.3m を超えていたというのです。1回のジャンプで2mを超えるのもありました。
この差の原因は、ジョッキーだったそうです。
実際、主催者が集めたカエルのグループと、何十年も大会に出ているベテランのグループが使ったカエルを比べると、ベテランの方が明らかに遠くまで跳んだようです。つまり、ベテランの選カエル眼がカギだったということでした。
通常の実験室で10匹ほどカエルを購入して翔ばしてもこうはならないので、実験室のデータだけでは彼らの真の最大値を見つけられなかったということでした。
論文にはならないが、100年間の研鑽がこんなところにもあったのでした。
まとめ
今回は、マーク・トウェインの小説をルーツとするカラベラス郡のカエル跳ばし大会を紹介しました。
論文のデータは通常は”正しい”と考えられがちですが、このように実は田舎町のお祭りにより”正しい”データが隠れていることがわかりました。しかも、これが明らかになったのはたった10年前です。このような発見がまだまだ残されているのが生物の面白いところですね。
参考文献
[1] G. R. Zug, “Anuran Locomotion: Structure and Function, 2: Jumping Performance of Semiaquatic, Terrestrial, and Arboreal Frogs”, Smithsonian Contributions to Zoology, no. 276, pp. 1–31, 1978
[2] H. C. Astley, E. M. Abbott, E. Azizi, R. L. Marsh, T. J. Roberts, “Chasing maximal performance: a cautionary tale from the celebrated jumping frogs of Calaveras County”, Journal of Experimental Biology, 216(21), pp. 3947–3953, 2013
#カエル #生物多様性 #ハイラブル #KoeTurri
この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 カエルの連載で新たな知識を得ている。