自然や生態系の保全が重要であることは、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)などのキーワードで、広く認識される。投資や金融でも重要な観点である。連載「いきものコミュニケーション」は、カエルの研究で博士を取得し、ヒトの会話分析事業や、生物音声の計測事業を行っている音の専門家が生物とコミュニケーションについて解説する。Vol.7では、イルカの水中での音声コミュニケーションについて紹介する。

本記事は、ニッキンONLINE PREMIUMで連載中の記事の転載です。
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名前はヒトの専売特許?
私たちは誰かを呼ぶとき、名前を知っているのであれば相手の名前を使います。こうした名前で呼び合うのはヒトならではの習慣のように思えますがそうではありません。
海の中にも、互いを「名前」で呼び合う動物がいます。バンドウイルカです[1]。彼らは視界の悪い水中で、声を頼りに仲間とつながっています。その声のやりとりを調べていくと、まるで名前のように使われる音があることが分かってきました。
一頭ずつ違う呼び名
バンドウイルカは生まれて数カ月のうちに、自分だけの口笛のような鳴き声を作ります。音の高さが上がったり下がったりするパターンが一頭ごとに違っていて、その後はほぼ一生変わりません。これは自分自身の署名になるような鳴き声「シグネチャーホイッスル」と呼ばれます[1]。
署名が一人ひとり違うように、この口笛もイルカ一頭ごとの「個体識別名」になっているのです。仲間はその口笛を聞くだけでどの個体かが分かるようです。実際の署名の口笛は、半世紀以上イルカを追う米サラソタ・イルカ研究プログラムの動画で聴くことができます。
Signature Whistles of Sarasota Bay Dolphins(Sarasota Dolphin Research Program)
名前を呼ぶ
この名前をどう使っているのか、がポイントです。
バンドウイルカたちは、仲間のシグネチャーホイッスルを覚えて、それを真似て発声できるようになるのです。そして、相手のシグネチャーホイッスルをまねて鳴くことで呼びかけているらしいのです[1]。つまり、相手の名前を覚えて、それで呼びかけているというわけです。
野生のバンドウイルカを調査した研究[1]では、自分の口笛を真似た合成音を聞かされた個体は、自分の口笛で鳴き返しました。一方、自分のものではない他個体の口笛をまねて聞かせても、返事をしませんでした。「自分が呼ばれたときだけ返事をする」というこの反応は、口笛が名前のように使われていることを示す手がかりとされています[1]。
バンドウイルカの群れは、メンバーが分かれたり合流したりを繰り返す流動的な社会を構成しています[1]。そんな誰がどこにいるのか分かりにくい暮らしの中で、名前という仕組みは、仲間とのつながりを保つ助けになっていると考えられます。
まとめ
今回は、イルカのコミュニケーション、なかでも名前という仕組みについて紹介しました。私たちは、KoeTurriという生き物の声を計測する製品で様々な声を計測しています(詳細はこちら)。まだ陸でしか計測していませんが、水中に技術を拡大できたら、もしかしたら将来的にはイルカを個体識別して会話できる日がくるかもしれません。
次に水族館や海辺などでイルカの鳴き声を聞く機会があれば、どれが名前なのか、よく聞いてみるとより楽しめるでしょう。
参考文献
- [1] S. L. King & V. M. Janik, Bottlenose dolphins can use learned vocal labels to address each other, Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(32): 13216–13221, 2013.
ニッキンONLINE PREMIUM 2026年7月11日掲載 (リンク)
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この記事を書いたメンバー
水本武志
ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 あらゆるコミュニケーションを調べたい。生物研究プロジェクト Project Dolittle もやってます。