童話「かえるの王子様」 あれってどんな話だった?

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このシリーズの筆者の水本武志です。ハイラブル株式会社の代表取締役CEOを務めています。

私はカエルの合唱の研究で博士号を取得し、現在も生物の声に関する研究や製品開発を行っています (私のカエル研究について詳しくは こちらの記事)。 よりカエル博士になるためには、カエルと文化にまつわることも知っておく必要があるだろうと思いカエルにまつわる話を調べて共有していくことにしました。

ぜひ気楽に楽しんで読んでみてください。

前回に続いて、カエルにまつわる文化の話です。今回は童話に登場するカエルを取り上げます。

童話「かえるの王子様」

ある国の王女が、森にある泉に、金の鞠(ボール)を落としてしまいます。
そこでやってきたカエルがこんなことを言います。

「鞠を拾ってきてあげよう。ただし、王女を自分の友だちにして、一緒に食事を取って、一緒のベッドで寝るのが条件だ」

王女が条件を受け入れると、カエルは鞠を取ってきます。しかし鞠を取ってきた途端に、王女はカエルを置き去りに城へ逃げてしまいます。

翌日王女が夕食をとっていると、カエルがやってきて約束を守るようにいいます。
事情を聞いた王は、王女に約束を守るように命じます。王女は嫌々ながら一緒にカエルと夕食を取った後、一緒のベッドで寝るようになります。

しかし寝室で王女は嫌がって、ケンカをした挙句にカエルを壁に叩きつけます。すると、カエルは魔法が解けて立派な王子になります。
まもなく二人は仲良くなり、婚約します。

めでたしめでたし。

(Wikipedia より要約。リンク)

泉でカエルに出会う王女(ウォルター・クレイン画、1874年)

泉でカエルに出会う王女。ウォルター・クレイン画、1874年
パブリックドメイン(Wikimedia Commons)

この話、なにか変じゃないですか?

この「かえるの王子様」の話、そこまでメジャーではないですが聞いたことがある人がいるかもしれません。白雪姫やブレーメンの音楽隊で有名なグリム童話の一つです。他にも、王女がカエルにキスをすることで魔法が解けて王子の姿になる、というバリエーションもあるようで、こちらのほうが有名かもしれません。

グリム童話と口絵

グリム童話と口絵
パブリックドメイン(Wikipedia より引用)

ただ、どうもこの話、論理がおかしくないでしょうか。姫様が壁に投げつけたら、魔法が解けるというのがどうも解せません。

実際、この話はグリム童話の初版 1812年から、7版が出た1857年まで何度も書き直されていきました[1]。最初は「一緒にベッドに寝る」から想像できるより生々しいストーリーだったのですが、徐々に上品になっていき、結局、王女が寝る前にカエルを壁に投げつけるような話に変わっていきました。(投げつけるのが上品かどうかはさておき)

ドイツ語から英語へ

グリム童話は、言語はドイツ語でしたが、イギリスに渡るときに英語に翻訳されました。ここでさらに改変が加わっていきます。

まず、最初の英訳(エドガー・テイラー、1823年)で題名が「カエルの王」から「カエルの王子」に変わります[2]。さらに、壁に投げつける結末が、「三晩つづけて姫の枕元で寝ると呪いが解ける」という形に変わります[2][5]。

それでは、王女とカエルのキスで魔法が解けるという結末はどこからきたのでしょうか。

実は、それがまだ特定されていないのです。ドイツ民俗学者のヴォルフガング・ミーダーによれば、何人もの研究者が二十年以上議論を重ねてきましたが、キスの話がいつ紛れ込んだのかはいまも特定されていません[3]。かつては「英語版の多くにはキスのエピソードがある」と考えていたものの、実際にはないものも多くあったようなのです。

ことわざ研究者のチャールズ・ドイルは2012年、ミーダーに宛てた手紙で「いまだに謎だが、19世紀の英訳のどれかで最初に起きたのでは」と書いています[3]。いまのところ一番有力な見方ですが、書いた本人が問いかけの形にしているとおり、確証はありません。

ヒントになりそうなのが、英語のことわざです。英語には「素敵な王子様に出会うには、たくさんのカエルにキスをしなければならない」ということわざがあります。恋愛でがっかりする相手が続いても、いつか本命に会えるよ、という意味です。ミーダーの調べでは、活字で確認できる最初の例は1976年、オハイオ州の地方紙でした[3](さらに古く、1975年の刺繍図案にあったという指摘もあります[4])。そこから見出しに広告に漫画に、グリーティングカードやTシャツにまで、あちこちで使われるようになっていきます[3]。

ただ、このことわざが生まれたのは1970年代です。キスで魔法が解ける結末は、それよりずっと前から英語版にありました。順番からすると、ことわざがキスを作ったのではなく、すでにあったキスをことわざが世界中に広めた、ということになりそうです。

さらに、この英語の影響はドイツにも及びます。1986年ごろ、このことわざは逆輸入される形でドイツ語にも訳されました。すると本家ドイツでも、カエルの王子の物語の壁に投げつける場面をキスの場面に置き換えて覚える人が出てきたというのです[3]。ことわざのほうが、物語の記憶を上書きしてしまったわけですね。

このカエルと王子の話はいろいろなところに亜種がいて、魔法の解き方も様々です。

カエルが人間にもどる理由一覧[5]
魔法の解き方伝わっている地域・版
壁に投げつけるグリム童話(全版)
三晩、枕もとで眠るテイラーの英訳
首を斬り落とすスコットランド
背中の皮を切り開く朝鮮半島
キスをする出どころ不明

蛙化現象は「かえるの王子様」の逆

この話は日本にも飛び火しています。「蛙化現象」というものです。片思いしていた相手が、自分のことが好きだと分かった途端に急に気持ちが冷める現象です[6]。

実はこの話が、ちょうどかえるの王子様の逆になっているのです。

かえるの王子様は、「最初は嫌いだったカエルが王子になることで好意が生まれる」という話ですが、蛙化現象は逆に「最初は好きだった相手が嫌いになる」という話なわけです。なんとこの逆であることは、デジタル大辞泉にも書かれています。

まとめ

かえるの王子様は、原作のグリム兄弟も何度も書き直し、英訳するタイミングで名前が変わり、筋もどんどん変わって行きました。日本ではついに意味が逆にもなりました。

このように、文字に残るはずの出版物ですら、伝わるうちに形を変えていくようです。

もし手元にグリム童話があったら、いつ頃のものか調べてみてはいかがでしょうか。

参考文献

[1] グリム兄弟『子供と家庭のメルヒェン集』初版(1812)/第7版(1857)、KHM 1「かえるの王さま、あるいは鉄のハインリヒ」
[2] Edgar Taylor (trans.), German Popular Stories, 1823
[3] W. Mieder, “‘You Have to Kiss a Lot of Frogs (Toads) Before You Meet Your Handsome Prince’: From Fairy-Tale Motif to Modern Proverb”, Marvels & Tales, 28(1), pp. 104–126, 2014(リンク)
[4] Quote Investigator, “You Have To Kiss A Lot Of Frogs To Find Your Prince”(リンク)
[5] D. L. Ashliman, “Frog Kings: folktales of Aarne-Thompson-Uther type 440″(リンク)
[6] 『デジタル大辞泉』「蛙化現象」

#カエル #グリム童話 #ハイラブル #KoeTurri


この記事を書いたメンバー

水本武志

ハイラブル株式会社代表。カエルの合唱や人のコミュニケーションの研究が専門。 カエルの連載で新たな知識を得ている。

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